第5章 その娘、妻と成りて恋を知る
(さてと、取り敢えず中庭にでも行ってみようか。)
部屋を出た莉蘭は誰か暇そう……相手をしてくれそうな人を探して中庭へと向かった。
真っ直ぐに続く廊下を曲がった先をもう一度曲がると中庭に出る。
一つ目の角を曲がると、丁度向こう側をジュダルが歩いていた。
その後ろには覆面を着けた人達が歩いている。
ジュダルは莉蘭を見つけると、怪しげにニヤッと笑って此方に進路を変えた。
それを見た莉蘭は心の中で「げっ」と呟く。
彼があの顔をする時は決まって良くない事を考えている時なのだ。
迷宮から帰って来てからというもの、彼は顔を合わせる度に絡んで来ていた。
事ある毎に、やれ戦おうだの勝負しようだのと話を持ち掛けられるのだ。
その度に理由を付けて断っているのだが、何度か断り切れずに試合をした。
と言うか一方的に襲われた。
嫌だとはっきり言ったにも関わらず、だ。
彼との試合は必ず何かが壊れた。
そして、その度に莉蘭は紅明に叱られている。
彼は見た目ぼんやりしてる割に怒らせると凄く怖かった。
何と言うかこう、静かに火山が噴火してる感じだ。
「よう莉蘭何してんだ?」
よくもまあこんな清々しい程の笑顔で顔を出せるものだ、と莉蘭は内心で毒づいた。
いくら暇でも彼の相手を勤めようとは思わない。
「こんにちは、ジュダルさん。この間の手合わせで部屋の壁を壊して以来ですね。」
ジュダルの問いには答えず、莉蘭は笑顔を作った。
自分でも如何なのかと思うくらい態とらしい。
「あの時は悪かったって。」
「それ毎回聞いてますよ。」
ジュダルが何かを壊した場合、必ず紅明が出てくる前に姿を眩ませる。
結果、その場に残った莉蘭が怒られる羽目になるのだ。
「で、何してんだよ。暇ならまた戦おうぜ。」
「お断りします。ただでさえ最近紅明さんと顔合わせずらいんですから。」
莉蘭は遠慮無くそう言い放った。
この人に遠慮なんてしていたら此方の身がもたない。
「冗談だよ。まあ今は俺も忙しいからな。」
彼が忙しいとは珍しい。
明日嵐でも来るんじゃないだろうか。
「お仕事ですか?」
「あぁ。ん?何空見てんだよ。」
「いえ、荒れなければ良いなーと。」
「お前人の事何だと思ってんだ。」
……良い人じゃないのは確かだよね。