第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
「ん………ん?」
次に意識が戻ったと思った時、莉蘭は何も無い白い空間に居た。
「居た」と言うのは少し語弊が有るかも知れない。
何せ自分の体の感覚が無い。
例えるなら、夢の中で目が覚めた感じだ。
『我が主よ、何か願いはあるか。』
真っ白い景色の中、エリゴスの声が頭の中に響く。
白過ぎて自分が今何処を見ているのか分からなかった。
「願い?」
莉蘭がそう問い返すと、姿の見えないエリゴスが頷く気配が感じられた。
体の感覚が無く口を動かしている感覚も無い為、声が出ているのかすら怪しいが、如何やら此方の意思はちゃんと伝わっている様だ。
『我は主の願いを三つ、叶えることが出来る。』
「…そうなんだ。」
急にそんな事言われても、と莉蘭は生返事を返した。
正直、今は願いらしい願いは無い。
地位も名誉も、別に要らない。
既に自分は「皇子の妻」と言う肩書きが有る。
これといって困っている訳でもないし、悩んでいる訳でもない。
強いて言えば深蒼の件が気になるが、遅かれ早かれこうなっていたと思っている今、現状が一番幸せなのだと思っている。
「取り敢えず保留で。」
『…いいだろう。何時でも構わん。何か有れば願うと良い。』
「分かった。ありがとう。」
莉蘭がそう言うと、見えないエリゴスが笑った気がした。
終始眉間に皺を寄せていた彼だが、案外優しいのかも知れない。
その後直ぐ、莉蘭の意識は真っ白い景色の中に溶けて消えた。