第1章 緑色のキセキ。
彼女の名前は神谷るりという事がわかった。
クラスではそんなに目立つ方ではないようだが
頭が良く、努力家であるようだ。
季節はあっという間に夏を越え秋になっていた。
俺と赤司はいつものように
将棋の対局をしていた。
「そういえば女子バスケ部から中学選抜が選ばれたそうだ。」
赤司が思い出したようにボソっと呟いた。
「ほう。…あの部にそんな有望な選手がいたとは。」
次の一手がなかなか決まらず、
顎に手を添え考える。
考えた末に当たり障りのなさそうな所に駒を進める。
「しかも一年だそうだ。」
俺の甘い一手を見透かすように
赤司はすぐさま痛い所をつく。
「…うぅ。詰みなのだよ…。」
俺は思わず溜息をつく。
いつだって赤司には勝てない。
じっと敗因を考察し反省をする。
「神谷るり。」
赤司はそう呟いた。
思わず顔を上げる。
「え?」
「神谷るりという部員だそうだ。知っているか?」
赤司は俺をじっと見つめて居た。
「…いや。」
そう言った俺を赤司はじっと見つめた。
嫌な汗がたらりと垂れる。
「…そうか。」
赤司はそう言うと、俺から目線をはずし、
将棋の駒を片付けはじめた。
その時俺は何故だか嘘をついた。
かなり動揺していた。
赤司の口からその名が出たことに…。