第3章 シンドリア王国
「ではチサトさん、侍女にあなたの部屋を案内させるので着いて行って下さい。後からあなたの部屋に伺いますのでくれぐれも部屋から出ないように」
『は、はい』
私が返事するとジャーファルさんは部屋の外に控えていたのだろう侍女を呼び、私を部屋に案内するよう伝えると侍女が私の側へと来る。
「ではチサト様、こちらへ」
さ、様…?私に様なんて恐れ多い。
食客という処遇だからなのかな?
でも異世界の知識を提供するだけだし、その異世界のことを全部伝え終わったら私、捨てられちゃうのかな。
ネガティブな事を考えればそれは止まることなく、異世界のことを伝え終わるのなんて先の話ではあるが、私は徐々に不安になっていき暗い顔で侍女に着いて行く。
ー
「…シン、彼女を食客にした理由、まだ他にあるんですよね?」
チサトが部屋から出た後、シンドバッドは執務机に座り頬杖をつく。静かになった空間を壊したのはジャーファルの言葉でシンドバッドはそんな彼を一瞥すると肯定する。
「あぁ。彼女が異世界人だと言うのは恐らく間違いない。前に異世界人のことを記してある本を読んだことがあると言ったが、その本には異世界からきたものは幸福をもたらすと書かれていてな」
「…幸福?」
「…これは一種の伝説と化していたからあまり信じていなかったんだが、彼女は現れた。チサトをアル・サーメンに渡すわけにはいかない。彼女の能力は未知数だからな」
「しかし彼女を完全に信用するのはいかがなものかと」
「ジャーファル、チサトは純粋な子だよ。彼女の瞳はそのくらい淀みがない。だからあまり邪険にしてやるな」
「………彼女の行動次第、ですかね」
相変わらずの部下の強い警戒心に苦笑しながらも、優秀な部下を持ったことに嬉しく思うシンドバッド。しかしいつまでもジャーファルと彼女が信頼を築いていけないのは空気を悪くしかねないので、何かきっかけがあればと思考する。
が、そんな思考もなるようになると持ち前のポジティブさで解消してしまうと次は彼女のいた世界について聞くのが待ち遠しくなり薄く笑みを浮かべた。
「では私は彼女の部屋へ行きます」
「可愛いからって襲うなよ」
「あなたと一緒にしないで下さい」
ジャーファルは全く、と呟きながら部屋を後にした。