第4章 彼女の能力
目の前の男から目が離せない…
男が私に向かって杖を振り下ろす
その動作がスローモーションに見える
何か氷の塊のようなモノが私に向かってくる
あぁ…終わったな、私
死を悟り目を固く瞑るが、一向に来ない痛みに不思議に思って目を開ける。すると私の周りを取り囲むようにして形成されている薄緑色のような円球が確認できた。
「!…俺の攻撃を防ぎやがった。いーなお前!気に入ったぜ」
なに?
一体なにが起こっているの?
状況がいまいち理解出来ない。
この膜みたいなのはなに…
『…一体、なんなの…』
「俺はジュダル。今日はイイもん見れたし、シンドバッドがくる前に退散するか。じゃーなぁ」
ジュダルと名乗った男は嵐のように去っていった。ポカンと見ていた私はジャーファルさんのことを思い出すとまだ少し震える足のまま、彼の元へと走り寄る。
『大丈夫ですか…?』
「……えぇ」
『あの、ジャーファルさん、血が…』
「…この程度放っておけば治ります」
この程度、と彼は言うが壁に打ち付けられた箇所からは服に血が滲んでおり、その滲んでる面積は決して狭くはないことが出血している多さを物語っていた。
日本で暮らし平和ボケしていた私にとって、このような血の量は滅多にお目にかかれるものではなく、勿論応急手当てなどの知識も乏しく下手に手当てが出来ない。
何も出来ない自分にもどかしさを感じながらも、ただただ心の中で治れ、と強く願う。願ったところで今の状況が変わるわけでないのに、そう願ってしまうのは人間の性であるからか。
しかしジャーファルの傷にチサトが無意識に手をかざすとそこにルフが次々と集まり出し、ジャーファルの傷を癒していく。ジャーファルとチサトは驚いたように目を見開き、それを見続ける。
数分後、服はボロボロだが、ジャーファルの怪我はどこにも見当たらなくなっていた。
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