第1章 まずは疑いましょう
「助けられた時も、このまま化け物に切られるなら死のうと思って舌噛んでた。噛み切る前に助かったけどね」
「…なんでだよ」
「化け物になってまで生きていたいとは思えない。そもそも生きる願望もそんなにないけどね、体位は向こうに返したい願望はある。でも、首に触るっていう行為をするなら、私はここでさっくり死ぬよ。不快でたまらないから」
だからね、離してほしい。出て行くから。
それでもためらう青峰君に、これは舌噛むしかないかな、と口を小さく開けた瞬間。
「大輝、彼女を離せ」
涼やかな声が、青峰君を打った。
「赤司!」
「離せ。まだ、彼女から情報を引き出していない」
「…頭がおかしい奴の言うことなんて聞いてどうすんだよ!?」
「少なくとも、先程までの彼女の話は全て筋が通っていた」
淡々と、赤司は私を見下ろしながら言う。
「僕達を漫画の登場人物と言ったのにも、理由があるはずだ」
ぐ、と腕に力がこもる。
その腕に、別の人間の手が重ねられた。
「…離せよ、青峰」
「高尾…」
「俺も、阪本さんの話を聞きたい。それに、その人が頭狂ってるなんて、俺は思えない」
「…くそっ」
どさ、と地面にたたきつけるように投げ出されて、私は背中と後頭部を強かに打ち付ける。
「っ、げほっ」
「青峰!!」
「離してやっただろうが」
「怪我すんじゃねぇか、何やってんだ!」
高尾君が私の後頭部と背中にそっと手を差し入れる。
「大丈夫ですか?痛くない?」
「打っただけ、だから」
笑って起き上がると、後頭部にひんやりとしたものが当てられた。
「…冷やしとけ」
「…宮地、君」
「話し、できるか?」
「できるよ。ありがと」
給湯室から取ってきたのだろう。アイスノンを後頭部に当てて、私は小さく小さく笑う。
のろのろと椅子に座り直すと、高尾君を見上げた。
「…2回目だね」
「え?」
「高尾君に、「大丈夫ですか?」て言われるの」
「あ…」
「ありがとう」
そして、赤司に目を戻す。
冷静に私の様子を見ている赤司に苦笑しつつ、私はふぅ、と息をついた。
「とりあえず、謝るよ。不快なことを言ったと思う。ごめんね」
「いや、構わないさ。まだ半信半疑、偽の方が9割というところだ」
「だろうなぁ。うん、だから、説明続けるね」
さぁ、ここからが正念場だ。
[next]