第1章 まずは疑いましょう
「…私はね、漫画とか小説とかアニメとか大好きな、いわゆる広範囲カバータイプのオタクなんだ」
「…随分唐突だね」
「切り口に迷ってさー…そこでね、最近大好きだった漫画があって」
どう語ろうか。
どう伝えようか。
どう伝えたら、彼らはあまり傷つかずに済むのだろうか…
【03 かみいちまい、むこうがわ】
「主人公は、バスケが大好きなんだけどものすごく影の薄い男の子だった。目の前にいるのに無視されるレベルの、小説読んでるのが似合うような男の子」
「主人公は新設されたばかりの高校に入学して、そこのバスケ部で、かつての自分の仲間達を倒すことを決意する。キセキの世代と呼ばれる、バスケに関しては天才的なプレーヤー達」
「主人公には相棒がいてね。帰国子女で、主人公とは真逆にとてもバスケが強くて、主人公は相棒と日本一を誓い合う」
「そしてそこから、主人公と相棒とその仲間達が全国目指して駆け上がる…ていう、王道系スポーツ漫画」
「漫画のタイトルは、『黒子のバスケ』」
「主人公は君だよ、黒子テツヤ君」
沈黙が、落ちた。
ばき、と音がしたと思うと、目の前に立っていた青峰君に思いきり襟首を掴まれた。
さ、と一瞬で冷える感情。
首、に、
「…ふざけたことぬかしてんじゃねぇよ」
「…私、ふざけてるかな」
「俺達が漫画の登場人物だとでも言いたいのか?頭狂ってんのか!」
「…狂っていた方がましだった気は、してるけどね」
「やっぱりてめぇは危険だわ。出てけよ。ここから。人間だろうが知るか。勝手に助かって、勝手に死ね」
ずる、と引きずられる。
首に、巻きつく、腕が
あぁ、き、もちわる、い
「…離してくれないかな」
「言うこと聞く義理はねぇ」
「別に、解放しろと言っているんじゃない。ただ、首にね」
「あぁ?」
「首は、やめてほしい。吐き気がするんだ。許していない人間に触れられるのは」
「…知るかよ」
「離してくれないなら、舌噛んで死ぬよ」
「は!?」
ぴた、と動きが止まる。
少しだけ首に自由を与えて、私は静かに笑った。