第1章 まずは疑いましょう
きょとんと瞬く綺麗な瞳を見据えて、私は薄く笑った。
「人じゃないものに名を名乗ると、魂持って行かれかねないから」
「…それは君が敵だと言っているのかい?」
「君じゃないし。敵でもない。突っ走るな単細胞なの?年長の…ちょっとは知識のある奴の意見位、耳に入れとけよってこと」
「…ふむ」
目を眇める。あぁ、この視線はとても居心地が悪い。でも、仕方ない。
庇いたそうな顔をしている高尾君とか緑間君には悪いのだが、私は恐らく「立場が違いすぎる」
さて、これをどう有利に使うべきか…
「質問してもいいかな」
「種類によるが」
「ここがどこかわかる?」
「いや。見たこともない校舎にいきなり飛ばされていた、というのが今の状況だ。僕だけでなく、全員にとってここは見覚えがない場所らしい」
「そっか。…じゃぁ誰かの記憶がミックスされてる可能性は低いかな」
「何を言っている?」
「私はこの場所に対して現状3つの可能性を立てている」
ぴ、と指を立てると、赤司は面白そうに笑った。
「…聞かせてくれるのかい?」
「その前に、保証がほしい」
「言ってみろ」
「まず、私は現状この場所で一番怪しい人間だと思う。それは認める。だって私はここにいる全員と知り合いじゃないし、年齢も22歳だしね」
「…それで」
「それを踏まえた上で、少なくともこの状況が解決するまでは私の身の安全を保障してほしい。この場合の身の安全は、化け物から確実に守ってほしいとかそんなんじゃない。君達が私を襲わない、敵と認識して排除しにかからない、わざと囮として化け物の真ん中に突き落とすような真似をしない、私を人間だと認めて接する。…以上のことを守ってくれるなら、私は仮説を披露するし、持っている知識は…役に立つか分からないけど渡すし、ある程度までは君達の指示に従うよ。どう?」
「…それによって僕達には何のメリットがある?」
「さぁ。そこは君達が考えるところじゃない?」
「…なるほど。未熟な論理だが、確かに君が今持っている最大限のカードで打てる手だな」
ふ、と笑って、赤司は一つ頷く。
「君の出した条件を呑もう、阪本紫苑。ここを出るまで、僕達と君は同盟者だ。それで構わないね」
「十二分」
「さて、それでは君の3つの仮説を聞かせてもらおうか」
「了解」
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