第1章 まずは疑いましょう
笠松君は目を合わせないままにも真面目な口調で言う。
「黄瀬の態度が悪くて、すいません」
「いや、普通は疑われて当然だから…」
「そうだとしても、悪すぎです。さっきまでは俺も結構混乱してたんで止められなかったけど、次からは止めるんで」
「ちょ、俺悪くないッスよ!?」
「うるせぇ黙れ黄瀬!」
きゃんきゃん吠える黄瀬君と、たしなめる笠松君。
…これは、あれだよね。
「…犬と飼い主みたいだね」
「ブフッwww」
高尾君が吹き出し、緑間君が咳払いをし、他の何人かも笑ってたり口元抑えてたり。やっぱりみんなそう見えてるのか。そうなのか。
黄瀬君を鉄拳制裁で黙らせて、とにかく、と笠松君は笑う。
「俺も、頼ってもらっていいんで。よろしくお願いします」
「…ありがとう。こちらこそ、よろしくお願いします」
「次。そのまま左回りに行こうか。…敦」
ふられた紫髪の彼は、気怠げな視線を寄越してのんびりと名乗る。しかし座っていても多分立った私と大して変わらないんじゃないだろうか。とにかく大きい。
「紫原敦。ねぇ、んーと…阪本サン、だっけ?」
「はい?」
「そっちにもさ、まいう棒ってあんの?」
「う⚫︎い棒なら売ってるよ。多分ノリは同じ商品だと思う」
「ふーん、そーなんだ。ま、よろしくね」
「ありがと、よろしく」
なんだこのトトロ滅茶苦茶緩くないか。
さすがに少し戸惑う。紫原君は私に興味をなくしたらしく、もぐもぐとまいう棒を食べている。…あぁ、マイペースなだけ、か?
次の言葉が選べないでいると、これも近くの椅子に腰掛けていた少年が立ち上がった。
長身、小顔、泣きぼくろに漂う色気。天使のような美貌。
「氷室辰也です。よろしく」
ニコリと笑う、目が笑っていない。
警戒されている。笑顔は完璧だけれど。
刹那、背筋に走った悪寒に気づかないふりをしつつ、私も答えて微笑んだ。