第1章 まずは疑いましょう
心配そうに見てくる高尾君やいつの間にかそれに並んでいた黒子君に「大丈夫だよ」と繰り返していると、不意にぽん、と何かが頭の上に置かれた。
取り上げるとそれは…ボックスティッシュ?
「…僕はまだ、君を信じた訳ではない」
見上げる。思いの外近くにいた赤司が、少しだけ表情を緩めて微笑んでいる。
「だが、言っていることには一貫性がある。頭も悪くない。それに…」
一度言葉を切って、柔らかな声で続けた。
「人が命がけで紡いだ言葉が届かない程、愚かではないつもりだ」
「…やっぱり、何か私が間違えたら即叩き出すつもりだったんだね」
「あぁ」
「即答すぎて」
「君も怒ってはいないだろう?むしろ、大輝に疑われた時には出て行くことに抵抗しなかった。認められないなら仕方ないと思っていたんじゃないのか?」
「まぁ、常識的に考えたら、ねぇ」
「そう、常識だ。君は常識があり、僕相手に交渉を仕掛ける度胸もある。場の雰囲気も判断できている。しかし、叩き出される危険を押して僕達に君が思う真実を伝えた。つまりそれは、君の命をかけた言葉だ。だから僕はその一点を持って、君を認めていいと思っている…ということで、僕は改めて、君を同盟者として認めるよ。阪本紫苑」
「感謝するよ、赤司征十郎。…後、ティッシュありがと」
「あぁ」
頷くと、ついでだ、と赤司は遠巻きにしている他の面々に声をかける。
「自己紹介と洒落込もう。少なくとも、ここを出るまでは共に過ごす相手だ。…涼太、お前からやれ」
名指しされた金髪の少年は、嫌々そうにこちらを向く。
まぁ、私が彼の立場なら疑うだろうし、な。
「…黄瀬涼太。て言うか、あんた名前知ってたッスよね?」
「紙の中ではね。…ありがとう」
「別にあんたの為じゃねーから」
ふい、とそっぽを向かれてしまう。仕方ない、と笑おうとした瞬間、近くに立っていた黒髪の青年が軽く助走して黄瀬君の背中にドロップキックを叩き込んだ。…わお。把握。
「お前はいい加減にしろ!態度悪すぎだ馬鹿野郎!!」
「だって笠松先輩!」
「都合のいいとこしか聞いてねぇのか!ちったぁ周りのことも考えろ!」
怒鳴り、こちらを向く。微妙に視線をそらして名乗った。
「笠松幸男です。よろしくお願いします」
「あ、丁寧にありがとう。阪本です」
うん、やっぱり君だったか。