第1章 まずは疑いましょう
小さく体が震えて、私は細く長く息を吐いた。
…あぁ、私は、不安だったのか…
【05 あらためて】
「…ありがとう」
絞り出した声は、我ながら、情けないものだった。
左手で顔を覆って俯くと、不意にぎゅっと右手を力強く握られる。
視線を投げれば、高尾君がニコッと笑っていた。
「俺も信じますよ!てか俺最初っからあんま疑ってなかったし!あ、俺、フルネームは高尾和成です!よろしくお願いします!」
「…気持ち悪くないの?」
「この状況は気持ち悪いけど、阪本さんは気持ち悪くないです!…むしろ、そっちこそ気持ち悪くないんですか?」
俺達のこと。
問われ、私はやんわりと笑う。
「別に?君達、ただの高校生じゃない」
「…そっか。そしたら阪本さんもそうですからね!ね、真ちゃん、宮地さん?」
「愚問だな。俺とて疑ってはいないのだよ。この状況自体が非常識だと言うのに、常識に囚われていては愚の骨頂だ」
「最初から、普通の女の人にしか見えてねーよ」
「だ、そーなんで!ちょっとは安心してくださいね…て、え、あ、」
え!?と慌てる高尾君が分からず、私はきょとんと首を傾げる。顔を動かした瞬間流れた水の感触に、あれ?と更に首を捻った。
「あ…なんで、泣いて…あれ、ごめん」
「いや、謝らなくていいんで!」
ぐいっと高尾君の指が目元を拭っていく。運動部らしい、かさついた指だった。
…泣くつもりなんて、全くなかったのに。
無様に体は震え、ポロポロと涙は溢れていて、不思議と心は温かい。
どうやら、かなり参っていたらしい、と、私は苦笑するしかなかった。