第1章 穴無き穴と仲間達
「服とか、貸してもらえないかな。」
彼はそれを聞くとすっと立ち上がり、近くの部屋の戸襖を開けてちゃっちゃとジャージのようなものを出して私に投げる。
これを、着ろということだろうか。
「あ、ありがと・・・。」
ジャージをじっと見つめる。広げるとやはりデカイ。この年齢の男女差に心で小さく舌打ちした。
私は水着の上からそれを着ると、玄関まで案内してもらい彼の家を出る。
そういえば、ここはどこだろう。地名を聞くより高校の方向を聞こうかな。
「学校ってどっち?」
彼は最後に方向と思しき方を指を指すと、お礼も言わせずぴしゃんと引き戸を閉めてしまった。
(ま、マイペースだなぁ・・・。)
彼の家を覚えておかなきゃ。学校であってジャージを返したりなんかしたら、まるで如何わしい関係でもあるかのようだ。七瀬君にも迷惑がかかる事だろう。この年頃はそういうのが好きだから厳重注意が必要になる。
(なんか私・・・ばばあみたい。)己に失笑した。
恋か・・・・。ここ何年か、そんなことあまり気にしたことがなかった。この数年で老けたのか、恋に関してはあまりにも淡白である気がする。最近はプールに行くことしか考えていない。先日もタイムが落ちた。またチームの足を引っ張った。そしてまた苦しくなって水へと足を急がせた。
そんな毎日。水泳がきっと好きだから、私にはできる。
視界に学校らしきものが入ると、物思いにふける時間を止めた。
(え・・・・?)