第2章 新しい景色達
「水泳に必要な筋肉なんて、鯖で十分とれる」
「ああそうだね、確かに」
水泳に筋肉量はそんなにいらない。使う場所上の問題で肩に筋肉が着いてしまうが、実は重荷になるだけだから速い選手ほど筋肉を如何に落として必要な分に絞るかが重要になるらしいー・・・と、怜君のうちで読んだ本に書かれていた。
身長に対して必要な分とかが変わってくるらしいし、勿論筋肉はあっても困らないから凛さんのように鍛える人もいるようだが。
夜風が吹き込む。
それと合間って、近くで回っていた扇風機の風をようやく感じた。
ケチャップの甘酸っぱさと卵の味が美味しい。
オムライスの卵はバターで焼くようにしている。
あ、案外・・・普通に喋れるのか・・・。
と、まるで七瀬君が人ならざるものかのように考えてしまっていた。
そんな自分に少し恥を覚えた。スプーンを口の中で少し噛む。
しかしそんな後悔の差中、彼は「ご馳走様」と呟いて食器を持ってその場を後にしてしまった。
その後、部屋が全く鯖くさく無いことに気付いた。
どうやって料理しているんだろう?魚独特に生臭さは消せるとは聞いたことがあるが、実際そこまで本格的に料理をした経験はなかった。
味噌煮で匂いが消えるのは知っているが、他に何か方法があるんだろうか?
私はオムライスを食べ終えると、食器をとっとと片付ける。
縁側から聞こえる蛙の声に今更ながら夏を感じた。
付けっ放しのテレビを切って、台所へ向かう。彼が洗った食器はすでに干され、微かな水滴をしとりと落としていた。
(鯖、アレンジ・・・か)
そういえば一度、彼に味噌煮を食べられて酷評されたことがあった気がする。
(久々に明日、作ってみようかな)
明日は運良く部活は無い。
私は疲れた筈の足を軽く動かして自室に戻り、携帯を片手に大手料理サイトをサーフィンするのだった。
・・・しかし、私はまだこの時、何も知らなかったのだ。
この軽率な好奇心が、あんな争いを招くだなど・・・・・・・・・・。
-- #17 end --