第1章 穴無き穴と仲間達
「あの、カップルでプールにいちゃらぶしにきたのでは・・・。」
「違う。」
「じゃあ、何のために・・・。」
「泳ぎにきただけ。」
「好きなの?水泳。」
彼はまた言葉の代わりに一回頷いた。
じゃあ会ってるはずなのに、まぁそういう偶然もあるということか。
「私も泳ぐの好きなの!奇遇だねー、今まで合わなかったなんて。」
手をスッと差し出すと、またも不思議そうな顔をされる。そして何もせず私の顔を見た。
「とりあえず帰ってくれない。もう俺は寝たい。」
「ああ、そうだね。ごめんね。」
外は真っ暗だ。そうだろう。私が忍び込んだのも23時くらい。そこから寝ていた時間も考えればだいぶ経っていることはわかる。
って、どうやって家まで私を運んできたんだ・・・!?
立ち上がると、自分が今までずっとスク水であったことに気付く。
「あ、どうしよう・・・。服あっちだ。」
持ってきてはいないかと近くをみるがそんなものがありそうな気配はない。あるとすれば畳のいい香りのみ。
「あの、服は・・・。」
「そんなものなかったけど。」
「嘘・・・・!」
あの時、私は更衣室の鍵は閉めておいたはず。盗まれる訳がない。まさか、彼がとも思ったが女に不自由するような顔をしていないし多分違う。
(一応・・・。)
「あの、盗み、」
言い終わる前に「してない。」と真顔(さっきからずっとこの顔)で言われる。彼は感情を表に出す方ではないのか。
(どうしよう・・・。)
水着で帰るのもありっちゃありだが、警察に見つかれば御用を避けずにはいられない。