第1章 穴無き穴と仲間達
ボケーーーーーーーーーーーーーッ。
「ちょっと妙美ちゃん!?ちゃんと仕事なさい!あそこのテーブルのお客さんにはい!これ持ってく!!」
『違う。』
あの彼の発言から早1週間近く。
彼らに週末が終わり平日が始まってしまうと市民プールでしか泳げない私は、バイトという日課を増やしながら生活をしていた。
夏休みと言っても、高校生の夏休みは忙しいものね。補修とかその辺のことで追われながら部活をする彼らの邪魔は何と無く気が引けた。故に私も部活の方へと顔を出すのを控えていたのだ。
・・・まぁ、それだけではないけども。
『お前は泳ぐことも水も好きじゃない。』
仲が言い訳でもない彼の言葉。親密じゃなくても彼の言葉は心に来るものがあった。
(・・・どこかで、自覚してたの、かな・・・。)
「あっ!妙美ちゃん危ない!!!!」
ガシャン!!!!!!!!!!
大きな物音を立てて、ティーカップが割れる。
「え?え?なに???」
「何じゃないわよ!!!前!!」
前には紅茶で赤くなった白いシャツー・・・を来たメガネの学生。その名もレー君が濡れたメガネをグイと持ち上げて立っていた。
#9 彼女と複雑なメガネ
「貴方の目はちゃんと前に着いてるのですか。」
彼、そう紅茶でメガネもシャツも濡らしている彼はレー君。岩鳶高校の学生で一年生である。それ以上は知らない。
小さな街だ、ここいらでは岩鳶が地元の高校であるわけで。生徒の情報はある程度大人は知っていたりするようだ。加えてここの喫茶店のマスターであるおばさんの情報の詳しさは天下一品。近頃よくくる少年(即ちレー君)のことなど風の速さで調べ上げた。
(まあ教えてもらえたのは名前とかだけだからなあ)
「学校は終わっているのでいいですが、クリーニングはどうしてくれるんですか?貴方は客にまた粗相を犯したんですよ。」