第1章 穴無き穴と仲間達
「・・・大丈夫。もう少しすれば。」
「え?」
そう言ったのは、私の前で手を引いてくれている渚君だった。ニコリと笑って私を見ている。
彼に手を取られたまま立ち上がる。
追いついていない背・・・彼が急に大きく見えた。
「今は僕と練習中でしょ!!やろ!」
「は、はい!」
「ふふ、良い返事だー!!!」
監視の方にうるさいと注意を受け、2人で笑いながら再び水へと集中する。
***
もうオレンジ色の空。
「あー楽しかった!」渚君が叫んだ。3人で棒アイスを食べながら、帰路へと着いたのだ。
「水泳はロマンだとか、渚君意味わかんなかったけどね。」
「僕の名言集だよ、もーたえちゃんわかってないなぁ。」
「いやそれから私になにを学べと・・・。」
本当変な子だなぁ、渚君って。
そんな風に思いながら彼を見ていると、突然前へと駆け出して言う。
「楽しかった?」
「・・・うん、とてつもなく。」
「良かった!たえちゃんともっと仲良くなれた!」
「今日はありがとう。」
「・・・・。」
彼が急に黙り出す。え?お礼言っただけだよね?今失言したか私???
「たえちゃぁぁああああああ!!!!!!」
「!!??」
すると、今度は唐突に飛びかかってぎゅむと抱きしめられる。なんなんだ!!??
「僕、絶対たえちゃんがお家に帰れるようにするからね!!絶対見捨てたりしないからねぇええええ!!!」
わんわん喚くように言う彼に少しの不安と心配と同時に、謎の安心を感じる。そして彼の頭をちょっとだけ撫でてみたりするのだった。
・・・・私大胆だなおい!!!
***