第1章 穴無き穴と仲間達
悲しんだり悔しさで唇を噛む暇すら与えず、ずいずい言い寄ってくる。
「いいからはい、もっかいプール入って!見てあげるから!」
「え、や。」
「ほら早くぅ‼︎」
無理やり引っ張られたかと思えば飛び込むようにプールへとまた戻る。
顔を急いであげた。
「ちょっと!プールで変なダイブは禁止!!」
江ちゃんの癇癪すら聞き耳に入れず、渚君はニコニコして私の手を強引に取った。
「はい、バタ足から。」
・・・・・・な、なんじゃこの子は????
頭は混沌としていたが、言われるがままにバタ足をしてみた。
その後も、私は数々のご指導をいただいた。
渚君の教え方は丁寧で面白くて、最初はぐちゃぐちゃになりかけた頭が徐々に徐々にスッキリして行った。
時間が来ると、それぞれが更衣を始める。
女子更衣室のどこかまだ湿気った匂いは自分の学校の更衣室を思い出させた。
ここでもし、タイムが本当に上がるんなら・・・念願のレギュラー入りと、カナヅチという汚名が無くなるかもしれない!!!!
「・・・ふふ、ふふふふふ、うっふっふっふ・・・。」
「妙美・・・・さん・・・?」
「うわぁ江ちゃん・・・!!!!どどどうしたの??????」
高らかな笑い声まさか聞かれていたとか・・・・!!!!羞恥の沙汰!!!!!
熱くなる顔を必死になってタオルで拭き、下手くそな誤魔化しをして見せる。
「あの、まだかな、と。」
「あ、あー!遅いよね、ごめん!」
私のばかぁあああああ。
***
「ねーねーたえちゃん!」
出てきて早々、その明るい声は私に飛びつくようにして迫り来る。
この子は・・・こうどういう距離感で付き合って行けばよいのか?未だに渚君(と、あの年中無愛想)は扱いがよくわからない。
「ご飯食べに行こ!!」
「はっ!?」
「いーじゃーん、いっぱいお話ししたいんだ!」
だめ?とでも言いたげな上目遣いを巧みに使ってくる渚君。それを見ていて分かったのだ。