第1章 穴無き穴と仲間達
「自由型。」
「ハルちゃんと一緒だー!でタイムはいくつ?あ、50?100?」
私はそれぞれのタイムを言った。大体どちらも平均からプラス5秒からプラス9秒は遠いという悲惨なものである。
「じゃあー、そのタイムを平均からマイナス3秒以下は下げよう!」
「え、えぇぇええええ急にそんなのはむ「できるって大丈夫!!それに、いつ帰れるかもわかんないんだし時間はたっぷりあるよ!」ウス・・・。」
輝いた目とガッツポーズ。一発ぶん殴ってやろうかと思ってしまった。
そしてプールへと近づいていくにつれて、私の心臓は締め付けを強くしながら鼓動を早めていく。きっと好きだからこうなるんだ・・・泳ぐことが・・・。
***
校門に入った瞬間渚君はまた私を掴んで走り、誰にも見つからずにプールへとたどり着いた。
え、見学許可みたいなの・・・もらえばいいんじゃ・・・?
「もー!遅い!私渚君にメール送ったんだからね!?」
それを聞いて彼は携帯を覗くと、確かに彼女の宛名で"着きました!"と連絡が入っていた。
そういえば、連絡するとかいってたもんね。
激おこ!な江ちゃんを渚君が微塵も反省していない軽さで宥める。
「あ、女子更衣室開けてありますから使っていただいて大丈夫ですよ!」
私達は分かれ、それぞれ水着に着替えて体操を済ませる。
「じゃ、2人はいつものメニューでお願いします。で!えっと妙美さんは・・・どうしますか?同じメニューやりますか?」
「うーん・・・。あ、タイム、タイムを一回見て欲しいかな。」
「わかりました!じゃ、そうと決まれば早速始めましょう!」
やけに煩い蝉の声が私の中に蟠りを作る。
***
「っは・・・はぁ・・・はっ・・・ぁ・・・。」
「・・・えっと・・・。」
結果なんて勿論、彼女が唖然とする惨憺たるものだった。
なぜ、なぜなんだ・・・!あんなに泳いでいるのに、一生懸命やっているのに!
「何ででしょう・・・。」彼女が頭を悩ませる。
顔からしたり落ちる塩素のきつい匂いのする液体。
その匂いに眉を寄せ、苦しくなった 。
「フォームだ。うん、絶対そう!」
「・・・へ・・・?」
私の悩みの中に、容易く殴り込みをいれてきたのは紛れもない渚君であった。