第1章 穴無き穴と仲間達
・・・恐らくは、"色々"に多大な妄想をなされたんだろうな・・・。うう、何か聞かれたら応対しなきゃ。
「多分、何か聞かれたりとかはないと思います。人の不幸を根掘り葉掘り聞くタイプではないと思うので。」私の不安など拭い去るように彼女が笑う。
そ、そっかと私はそれに安堵した。
彼女の部屋に入る。
特に部屋で問うこともなく、私達の話題は段々と自分達についてになっていった。
「えぇっ。筋肉フェチ・・・?」
「そうなんですよー。あ、でもボディービルダーみたいなむっきむきっていうのは好きじゃ無いです。水泳部の方々の筋肉量が本当に、イイんですぅ・・・。」
うん、ちょっと江ちゃんから純情清楚系乙女というイメージが一瞬で消えたけど、仲良くなれそうな気がした。
筋肉の話題になり出すと口が開きっぱなしでおかしくなる彼女に一晩付き合い、私が身体中の筋肉の名前を覚えてしまった所でその話題は終了となった。
・・・教えたかったの?教えたかったのかな?
***
夜、布団の中。暗くなったその部屋で、通帳を眺めていた。
中に預金されているその額なんと10億・・・。
これだけあればどれだけでもここで人生を、なんてことができてしまうー・・・。
嫌だ嫌だ、まだそんな、本当に異世界だなんて・・・。
それが実は私の本音。だから動揺もしない。
ごそっと布団から音がする。親切にもベッドを開けてくれた彼女。(ちゃんと断ろうとして押し切られた。)
まだ起きているようだ。
「・・・どうかされたんですか?」
「・・・実はさ、まだ異世界がどうのとか信じて無くて。でも・・・何だろう、完璧にカンってやつなんだけどね、何と無く・・・二度と帰れない気がするんだ・・・。」
その隣から、返答は何もなかった。
暫く天使が通ったかのように音の消えた深海の部屋に、時計の音だけが存在するのを気付いた。
「もう夏休みに入りました。・・・出来る限りですけど協力させてください。頑張りましょう、一緒に。」
だから、何でこの世界の人達はこんなにも優しいんだッ・・・!!!!
深海の部屋で、私は子どもの様に、初めて泣いたのであった。