第1章 穴無き穴と仲間達
素早く登って行くその1人の後ろ姿を、引き笑いと共に見届けていた。
「ハルー!上がれたら、更衣室のドアを内側から開けてね!」
なんて言葉の途中で、ザバン!!!!という音と小さな水滴がとんできた。いつの間にか葉月君は「ハルちゃんズルい!」と言いながらもよじ登り終えていた。
「あー・・・。ど、どうしよう・・・。」
真琴様が慌て出す。
考えても仕方が無いと、私もそのフェンスを登ろうと試みた。
「えっ、妙美さん!?」真琴様が大声を上げる。
「危ないよ、妙美ちゃん!!」
葉月君の声も耳には届かず、私も天辺で足を跨いだ。今更引き下がれなかった。
(ひっ・・・・!!!!)
意外と高い。フェンスに行くまでに踏み台を乗って、そっから登りはじめていたのでそりゃ高さもあった。あまりしたを見ないよう足を跨いで渡り終える。
足をつき、安堵で目を開けた。
「うわぁ・・・。」
プールの中には一レーンを綺麗に泳ぎ続けたり浮いたりと水と戯れるように溶け込む七瀬君がいた。
その姿に一瞬美しさを覚えて、ぼーっと見つめた。
「綺麗でしょ?・・・ハルちゃん、水が大好きなんだ。」
隣にきた葉月君が、茫然とする私の瞳を覗き込みながら言った。
「すごい・・・。」
動きに無駄のないフォーム。下手くそだろうと私だってたくさん見てきた。まるで水に愛されるかのように上手く泳ぐ人達・・・。まさにそれだ。
(いい、な・・・。)
葉月君がプールサイドに座り足を水につけるから、同じように私もプールに座り込んで、ジャージを巻くし挙げると端のレーンに足を入れた。
「・・・気持ちいいですね。」
彼に微笑み、彼もまた隣にちょこと座って「そうだね。」と返してきた。
プールの中を見る。
私はここに落ちていたのかーと思うと、何だか少し胸が苦しいような不思議な気分になった。
水泳部。
その単語と共に現れた動機が私の息を崩して行く。苦しくなりうずくまる体制をとった。
そのまま、再びプールに落ちて行くと、
私はまたも、気を失った。