第1章 穴無き穴と仲間達
若もんといっても、歳かわんないけど。
鍵を居間の平たい机の上に置いて縁側を開ける。
(おー・・・涼しい。)
一先ずそこに座ると、考え事を始めた。
主に、これからどうするか、とか。
といってもどうしようもないのが実情だ。今は何もできそうにない。寧ろ考えたくない。
パラレルワールドとかめちゃくちゃな単語にめまいを感じる。
仮にもし、本当にそれだったなら、帰ることなんてきっと無理な気がする。そういう学者の元にでもいってどうするか聞く、とかが正解なんだろうか。
他の、もっと現実的な可能性が見つからない。
近くの棚に無造作に置いてある地図の本を睨んだ。
その後数十分ほど、原因とこれからを考えたが原因の時点でどれもひっかかって先に進めなくなっていた。
「あー・・・。」憂鬱な気分を無理やり奮い立たせ立ち上がる。部屋を見回して、居間にある戸襖に目がいった。
ちょっとくらいなら、きっと彼の自室ってわけでもあるまい。覗いても、そう変なものは出てこないはず。
本当にちょっとだけと心で唱えながら、その戸襖をそおっと開けた。
中には幾つもの段ボールや、敷布団が入っていた。下の段に置かれた段ボールのうちの一つを引っ張り出すと、中にはトロフィーや表彰状がある。
「すご・・・。」
彼は何に優秀だったのだろうか。その表彰状やらにはスイミングスクールや大会の名前が書かれていた。
(この人・・・もしかしてすっごく水泳上手いんじゃ。)
少しの感動と興奮を覚えた。ひょっとしたら、私のフォームも見てもらえるかもと期待がかってきたようだった。
じっとそれらを見つめていると、玄関のチャイムに呼び出される。
ハッとなってそちらを向いた。勿論、彼なわけはない。ここは、相手が帰るのを待たなければ。
謎の緊張とさっきから続いたままの胸の高鳴りに汗が出てくる。
そのチャイムがならなくなると、私は一息ついて段ボールを元の位置にきっちり戻した。
いろんな意味でドッと疲れの溜まった私は、疲労に流されるがままそこに寝そべって昼寝を始めたのだった。