第2章 新しい景色達
「顔緩んでるよ?」真琴君がクスクスと私にそう教えた。
「あ、ごめん。前は、怖い顔で泳ぐって言われてたから嬉しくてつい・・・。だらしない顔見せちゃったね」
「全然だらしなくないよ!・・・それにしても怖い顔で泳いでたってどういうこと?」
「まぁ・・・タイムを早くすることだけに執着しすぎて他なんにも見えてなかったから・・・」
「あはは、どんな顔だったんだろうね?」
私は親指で口角をグイとあげて、人差を伸ばし目を釣り上げた。「こんな?」というと、彼は大きな手で口を覆い肩を震わせて笑った。
ヒタヒタと、江ちゃんの水撒きのおかげで冷えているタイルを2人で歩く。
彼はひとしきり笑って疲れると、私を見た。その目線には一切の棘がない。
「・・・今は、違うかな」
彼が優しくそう言う。まるで子供の返事を待つ親のようにどこか優しい声で。
この世界の人々はやっぱり、どこまでも優しいし甘い。(一部例外)
私は満面の笑みを返す。
「勿論」
「うん・・・よかった」
彼も同じように嬉しそうに笑ってくれた。
そうして2人でまた自分のレーンのスタート地点に戻ったのだった。
よく見ているなぁ、彼の目線を思い出すとそんな安心感が生まれるのだった。
***
いつも通り・・・の帰り道。いや、久々・・・と言うのが正しいだろうか。しかし真琴君の対応は気まずくなる前と同じで、まるで何事もなかったような気がしてきてしまう。
仏頂面のあの人はやはり私と真琴君の歩く数m先を闊歩していた。しかし、何処かがいつもと違う気がしてならない・・・。優しく(?)されて私の頭は麻痺しているのだろうか?
「なんか今日、ハルの歩くペース遅くない?」
麻痺ではなかったようだ。いつもあの人は私達と距離を離している上にスピードを上げて行く。二人で話して歩いていると彼が見えなくなるなんてザラだった。
私は彼の方を向いてうんと頷いた。
「やっぱりそう思う?」
「・・・ハルと何かあったんでしょ。バレてるよ」
呆れるように彼が言う。
やはり昼からの様子はバッチリ見られていたようだ。
「謝って、正解だった?」
・・・結果までバレている。
もう感心を通り越して恐怖すら覚えそうだが、それほどまでに彼は周りをよく見ている証拠だなと思った。