第5章 君を自転車のうしろに乗せて
私は今、追いかけられています!
この前、公園で出会った人に。
何故追いかけられているか?
そんなの決まっています!
私が生意気に一人で公園のゴールを占領していたからです!
だから目をつけられてしまったんです!
どうしよう…どうしよう…
男の人相手にいつまでも逃げられる訳ないし…
でも捕まったらきっと殺される…!
そんな事を考えながらがむしゃらに走っていたら、
前方に幼馴染の流川楓くんがいるのが見えた。
『楓くん…っ!』
『…渚』
『た、助けて…!』
『…何があった』
『逃げないと…殺される…!!』
私の危機迫った表情を見て、楓くんは何か察してくれたようだった。
『……乗れ』
楓くんはどこから出したのか、自転車を傍らに携えて、後ろに乗るように促した。
私は自転車の後ろに乗り、楓くんの肩に捕まった。
楓くんはものすごいスピードで自転車をこぎ、
追いかけてくる男の人とかなり距離が開いた。
ふと後ろを振り返ると、追いかけていた男の人が木にぶつかるのが見えた。
遠くから見ていても、ゴチンと鈍い音が聞こえてきそうなほどすごい勢いで。
その男の人が倒れて起き上がらない様子を見て、楓くんに話しかけた。
『楓くん…ごめん、やっぱり止めて』
『…む』
楓くんは素直に自転車を止めてくれた。
私は急いで自転車を降り、男の人が倒れている所まで走る。
『だ、大丈夫ですかっ!?』
仰向けで倒れている男の人に声をかけるが、目をグルグル回していた。
木にぶつかったせいで、額は赤く腫れていた。
『…三井先輩』
楓くんもいつの間にか戻ってきてくれていた。
『知り合いなの?』
『バスケ部の先輩』
『…とにかく保健室に連れて行かなきゃ…』
私が焦っていると、楓くんが三井先輩とやらを背負った。
『あの…楓くん、ごめんね…』
『…別に』
こうしてひとまずこの逃走劇は幕を閉じた。
続く