第1章 小さなきっかけ。
琴乃の母は完璧な人だ。
美しく、性格も良く、何でも出来る。
そんな完璧すぎる母から生まれた琴乃は
容姿こそ母にそっくりなものの
自己評価ではあるが、性格は自己中心的で
不器用で何でも母のように上手くはこなせない。
そこは父に似てしまったのかもしれない。
父は真面目すぎる男だ。
頑固でまるで融通の利かない不器用な男。
仕事の虫のように仕事をこなし、
顔はいつだって疲れきっている。
休日さえ、休もうとせず
ずっと部屋に籠って仕事をしている。
そのおかげでこの裕福な生活が出来ているわけだが、
もっと仕事以外に興味を持ってほしいものだ。
母の作った野菜スープを口に運びながら、
ふと、テレビの方へ目をやる。
"先月からA市近辺で起こっている女子高生連続失踪事件に新たな被害者が…"
テレビでは物騒な事件をアナウンサーが読み上げる。
琴乃は他人事のようにボーっとそれを眺める。
「またなのね。琴乃ちゃんも気をつけてね。」
母はそういうと、
心配そうに琴乃を覗き込んだ。
「うん。」
ボーっとしたまま返事をし、
野菜スープを全て食べ終えると、
琴乃は学校へ向かう事にした。