第1章 小さなきっかけ。
「ただいまー。」
その声に返事はない。
母は留守にしているのだろうか。
玄関の靴に違和感を覚えた。
右端に揃えられている男物の靴。
確かに見覚えがあるのだが、
なんだかここにあるものではない気がした。
なんだろうこの感覚。
恐らく見覚えがあるから
父の靴であるはずなのに…。
少し首をかしげてから靴を脱いで
靴を揃えた。
奥の部屋からバタバタと物音が聞こえた。
なんだ、お母さん居るんじゃん。
そう思いながら階段を登って自分の部屋へと向かった。
部屋の窓から外を見ると、
まだ彰人の車は止まっていた。
なんとなく気持ちが悪かったので、
琴乃はカーテンを閉めた。
暫くすると車が発進する音が聞こえた。
それと同時に部屋がノックされた。
ドアを開けると、母が立っていた。