第1章 小さなきっかけ。
「まじかー…。ノート借りる約束してたんだけどなぁ。」
男は落胆した様子だった。
「…。」
琴乃はそんな男をじっと見ていた。
恐らくこの男は優斗の友達なんだろう。
男は再びこちらをじっと見つめた。
「で?彼女ちゃんは今から帰るの?」
その言葉に琴乃は頷いた。
「俺車で来てるから送ろうか?ほら、最近この辺物騒だし…。」
男はヘラっと笑った。
琴乃はまた無言で頷いた。
正直ラッキーだと思った。
また30分以上掛けて家に戻るのは
憂鬱だと思っていたから。
男の車は黄色い軽自動車だった。
「ごめんねー。ちょっと汚いけど…」
そう言って男がドアを開けると
なんだか生臭いような匂いが漂った。