第1章 プロローグ
「あ、大丈夫です。自分でやります。」
相手の人が袋を自分で抑えてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
相手の人が自分で冷やしている間、何もすることがなくて、初めてちゃんと相手の顔を見た。
鳳くんか。
りさが同じクラスで、すごく優しいって言ってたっけ。
テニス部の大会を観戦しに行ったこともあるから、レギュラーだってことも一応知ってる。
でも、接点は無い人。
テニス部のレギュラーってだけで、周りを寄せ付けないようなイメージがあって。
私はこの先関わることはないんだろうなって思ってた人が、目の前にいる。
冷やしている足を見ていた鳳くんだったが、私の視線に気づいたのか視線を足からえみに移した。
えみは目が合う前に慌てて目線を足に移した。
見てたの、バレた…よね。
見つめられているのを感じた。
「あのさ、愛内さん、だよね。」
鳳くんは少し自信なさげに言った。
「あ、はい。」
まさか話しかけられると思ってなくて、そっけない返事をしてしまった。
鳳くんは笑顔になる。
うわぁ、天使みたいに笑うんだな…この人。
「よかった。違ったらどうしようって…」
「…私なんかのことよく知ってますね?」
うわっ、なんか刺がある言い方しちゃった。
「うん。俺、愛内さんのことは何故か前から知ってるんだ。」
表情からして、何も深い意味は無いことはわかるけど、ちょっとドキリとする言葉。