第1章 プロローグ
3月、卒業式が終わったあとも、1、2年生には授業がしばらく残っていた。
でも、もう先輩の姿は校舎内を探してもない。
毎日の楽しみが無くなった気がした。
放課後、廊下を歩いているとりさがえみの背中を軽く叩いた。
「えみ最近元気ないよ~。」
「そんなことないよ?」
りさはクラスが違うけど、ずっと仲良くしてる。
でも、そんなりさにも先輩が好きだったことを言ってなかった。
だって、先輩にはたくさんのファンがいて、私みたいなただの一生徒が知り合えるような相手ではないことはわかっていたから。
諦めたほうがいいってなるだけだし。
私が好きだったのは、生徒会長をしていて、そしてテニス部部長でもあった跡部先輩。
二年間結局喋ったこともない。
卒業式でも代表のスピーチをして目立っていた。
卒業式後はもちろん女子に囲まれていた。
階段を降りたところでりさとは別れた。
えみは放課後は保険委員の当番で保健室に残った。
保健の先生が不在のとき、代わりに保健委員が簡単な対応をするのだ。
大抵、誰も来ないから、いつも読書や宿題をして時間を潰す。
けど、その日は違った。
2回のノックがあって、「失礼します。」という声と共に男子生徒が入ってきた。
顔をあげると、テニス部のジャージが目に入った。その服に、つい先輩を思い出した。
「どうしましたか?」
ジャージに目がいって、ろくに相手の顔も見ず事務的に対応する。
「軽く足を捻っちゃって…。」
足を見せてもらうとちょっと腫れてるように見える。
捻挫の対応は、たしか、"冷やす"だ。
椅子を2つ用意して、片方に座ってもらい、もう一つに足を乗せさせた。
「じゃあ、冷やしますね。」
氷水を袋に入れて患部に当てた。