第11章 夏の夜の花*伊月*
待ち合わせ場所に向かうと、濃紺の浴衣に身を包んだ俊くんが立っていた。
和風で端正な顔立ちの彼にとてもよく似合っていて、私は自分の鼓動が速くなることに気が付いた。
「俊くん!」
携帯を見ている彼を呼び、カラコロと下駄をならして近付く。
「名前、急がなくていいよ。…っ!」
彼は視線をこちらに向けると、目を見開き頬を染めた。
「俊くん浴衣姿素敵だね!ちょっとどきどきしちゃった。」
思わず素直に気持ちを伝えた。
「名前もだよ。…可愛い。」
手で口許を隠し、照れながらも柔らかく微笑んでくれる彼を見て、私のモヤモヤは少し消えていた。
褒められると機嫌も直ってしまう。
女の子は中々単純だ。