第10章 恋する香り*実渕*
テスト前になり、私は図書室で勉強に励んでいた。
洛山高校は文武両道を重んじた高校で、全国随一の進学校でもあった。
「うわー…。もう8時過ぎちゃった…。」
時計を見ながら電車を待つ。
どうやら事故があったらしくダイヤが乱れているようで、ホームには電車待ちの人で溢れていた。
「名前ちゃん?」
名前を呼ばれ、隣を見ると私の専属美容師さん。
「玲央ちゃん!…今部活終わったの?お疲れ様!」
「今日は遅いわね?どうしたの?」
「図書室で勉強してたら遅くなっちゃった。」
「もうすぐ試験だしね。じゃあ途中まで一緒に帰りましょう。」
やっと来た電車に乗ると、車内は人でぎゅうぎゅうになっていた。
他の乗客と密着した状態に息苦しさを感じる。
「名前ちゃん、こっち側に立って。」
彼は私の腕をぐいと引っ張り、入り口の壁際に立たせた。
そして私の真向かいにすっと立ち、私を庇うように手を壁につけた。
「ありがと、玲央ちゃん。」
ふっと玲央ちゃんは微笑み返してくれた。
すらりと高い背。
バスケで鍛えられた逞しい腕。
伏し目がちにしていると際立つ長い睫毛。
そして私の心を弾ませるシャンプーの香り。
気がついてしまった。
私は彼に憧れているのではなく、恋い焦がれているのだと。