第9章 つよがり*火神*
夏休みになり、私の手帳は予定で真っ黒だった。
週5でバイトを2つ掛け持ちし、朝から夜まで働いて家には寝に帰る。
空いた日は必ず友達と会う約束を作り、外に出掛けるようにした。
「名前、明日またバイト2つあるの!?」
「うん。早くお金貯めて彼に会いに行きたいし!」
「うわー!健気!でも、あんまり無理しないでよ。」
「ありがと。大丈夫だよ!」
早く大我に会いに行くために、お金をたくさん貯めたくて。
一人になると、彼を思い出して辛くなるから。
そんな生活を送って1カ月ほど経った。
どうしても予定が入らず、一人で街に出ることにした。
学校の行き帰りも手を繋いで一緒に歩いたっけ。
マジバのチーズバーガー大好きだったな。
出会って恋に落ちたのは学校だった。
この公園で、よく黒子くんや青峰くんとバスケしてた。
敬語が苦手でぶっきらぼうだけど、不器用な優しさが伝わる話し方。
よく頭を撫でてくれた温かくて大きな手。
彼が使う柔軟剤の香り。
抱き締めてくれた時やキスした時のぬくもり。
もうどれほど触れていないのだろう。
気付けば大我との思い出巡りのようになっていた。
「苗字さん?」