第9章 つよがり*火神*
大我がアメリカに行くまで、たくさん思い出を作った。
バスケ部で選手とマネージャーとして過ごす毎日。
彼の家で二人でゆっくり過ごす時間。
たまにお休みが出来ると、映画を観に行ったりショッピングしたりと恋人らしくデートもした。
私たちが出会い、多くの時間を過ごした高校ともお別れした。
あっという間に、明日が大我のアメリカ出発の日。
「いよいよ明日だね…。」
「おう。」
「荷物もうあとそれだけ?」
「そーだな。もう向こうに送っちまったから。」
大我はマンションを引き払ったので、今日は私のお家にお泊まりしている。
「…悪いな。お前を置いていきたくないけど…。」
ドラマみたいに「俺についてこい!」なんて言うにはまだ私たちは若すぎる。
お互いわかっていた。
「謝らないでよー。大我が夢に一歩前進するんだよ!むしろ嬉しいことじゃん!寂しいけど、私は大丈夫!」
その時、彼がすっと逞しい腕を伸ばし、力強く私を抱き締めた。
「名前、ありがとな。…あと、これ。」
そう言って大我が差し出したのは小さな箱。
開けると柔らかく光るシルバーリング。
「…ありがとう。ふふっ、サイズぴったりだよ。」
「…調べんのすっげー大変だった。…俺も付けてるから、同じやつ。」
そう言うと、服の中に手を入れてリングがついたチェーンを取り出した。
「指だとバスケするにはちょっと邪魔だもんね。」
「タツヤの時みたいだ。」
明日から離ればなれになるなんて、まるで嘘みたい。
いつも通りの穏やかな時間。
この時は全く実感が湧かなかった。