第35章 彼氏彼女ができるまで*笠松*
初めてまともに言葉を交わした時のこと。
「うわぁぁぁ!」
見事なまでに窓から入り込んだ突風で、プリントが宙を舞った。
「あーあ…。」
廊下のど真ん中でやってしまったものだから、ひたすら恥ずかしい。
一緒に持っていたワークブックを床に置き、プリントを拾い始めた。
すると、男子の屈んだ足元が視界に入って、次にごつっとした手がプリントを拾うのが見えた。
「苗字、お前何やってんだよ。」
ふと、声がする方に目を移すと、今まで挨拶をやっとできたくらいの笠松くんがいた。
「笠松くん!うわー…助かるよ!ありがとう!」
あっという間にプリントは集まり、彼は床に置き去りになっていたワークブックの固まりを軽々と持ち上げた。
「…これどこまで運ぶんだ?」
「え…職員室だけど…。」
「お前そっち持っていけよ。」
私の手元に残っているのは軽いプリントだけ。
言葉は少なくてぶっきらぼうだったけど、彼のさりげない優しさは私の心をぎゅっと掴んだ。
並んで歩いているだけで、何故か意識してしまった。
「私の名前知ってたんだね?」
「…クラスのやつの名前くらい知ってる。」
「ふへへっ!」
何だか嬉しくなって思わず笑みがこぼれた。
「変なやつ。」
そう言いつつも彼の表情も緩んでいた。