第34章 キスまでの距離*紫原*
急に体がふわっと持ち上がり、目線の位置が高くなった。
気付けば私は敦に抱えられ、お姫様だっこされた状態になっていた。
「敦!?そっち男子寮なんだけど!」
「名前ちん黙って。うるさい。」
敦は私を抱えたままどんどん階段を上り、自分の部屋と思われる部屋に入った。
やっと下ろしてもらえると思ったら、彼はそのままベッドの上に腰掛けた。
ただし腰回りをがっちり捕まえられているので、逃げられない。
すると大きな手が私の頬に伸び、何かを拭うように擦られた。
「ねー、名前ちん。何で室ちんにほっぺにチューしてって頼んだの?」
意外だった。
もっと感情的になって拗ねられるのかと思っていたから。
「それは…。」
いざ聞かれても恥ずかしくて答えることができなかった。
「室ちんにチューしてほしかったの?オレのこと嫌いになった?」
思わぬ言葉に彼の方を見ると、瞳に涙を溜めて泣くのを我慢しているみたいだった。
「そんな訳ないでしょ!私がキスしたいのは敦だもん!」