第28章 文化祭②/黄瀬*氷室*赤司
練習を積み重ねて迎えた当日。
劇は所々歌とダンスを交えながら、ミュージカル風に仕上げられていた。
お城で継母や義理の姉に苛められ、舞踏会に着ていくドレスも破られてしまったシンデレラ。
魔法使いのローブを着た俺と名前っちの二人だけが舞台に上がる。
なんかやたらとカメラのフラッシュが光った気がするけど。
「…シンデレラ。何かお困りですか?」
俺は真っ直ぐ名前っちを見つめる。
「…舞踏会に着ていくドレスが無くなってしまったんです。」
たくさん練習をしてきただけあって、名前っちの表情やセリフの言い方は完璧だった。
「それでは、私があなたを美しく変身させましょう。」
そう言って俺は名前っちに出来る限り近付いた。
そして彼女の頬に手を寄せ、強い眼差しを向けた。
ほんの数秒だったと思う。
だけどその一瞬だけ二人の時間を作れたような気がした。