第14章 番外編1 束縛な彼氏
ドンっと、横から追突される。
「あっ」
よろめいた拍子に、持っていた本が3冊、床にちらばる。
「あっ!」
低い声。
咄嗟に腕が伸びてきて、肩を抱きかかえられた。
「っ、びっくりした……」
「あ、こ、こ、こっちこそ、す、すいませんっ!」
相手がいきなりガバっと頭を下げた。
「いえ、こっちこそごめんなさい」
つられて謝りつつ、本を拾おうとかがむと、
「あ、俺拾いますっ」
大きな手が本を拾い上げる。
「あ、これ……」
相手が固まった。
「こ、これ、俺のバイブルです」
「え……?」
『負けないでカムチャッカ』
タイトルを見て、ああと思いだす。
同じクラスの男子にこの前図書館で半ば無理やり勧められた写真集だ。
貸出記録がゼロなのを見て、なんとなく納得した本でもある。
「俺のバイブルなんだ、これ」
「…そうなん、ですか……」
ちらりと相手の顔を見る。
黒いジャージ。
さっきの相手高校の人だ。
この団子頭にひげのある老け顔は、たしかコートにいた人。
留年でもしたのかな、と思ったから覚えてる。
「おススメはね、……ほらここ。僕は走り出す。彗星のように。失敗したってカムチャッカ。逃げ出したってオホーツク。僕は……」
「ちょっとっ!」
彼の朗読を遮った声が、ずかずか近づいてきた。
「げっ……だ、大王様」
大王様?
「ちょっとヒゲ男クン、なに俺に断りなくナンパしてんの!?」
「ヒエッッ……」
胡乱な目つきで睨まれて、ひげの人は大きな体を小さく縮こまらせる。
「す、すいませんっ、すいませんっ」
「及川さん……!?」
ぐいっと腕を掴まれ、引きずられるように体育館を出る。
振り返ると、ひげの人は固まったように立ち尽くしている。
及川さんの足はずんずん速くなる。
「ど、どこ行くんですか?」
「………」
なに怒ってるんだろう?
私、何かした?
着いたのは男子バレー部の部室だった。
鍵を開けて入った及川さんは、そのまま中からまた鍵を閉めてしまう。
「……先輩?」
「ちょっと、なにあんなヒゲ野郎に触られてんの!?」
「違う、あの人は本を拾ってくれただけで……」
「君は俺のなんだから、誰にも触らせないで」