第11章 及川さんに愛されて……
とりあえず髪の毛を拭いてバスローブに着替えた。
濡れた洋服を持って灯りのついたリビングに入ると、テーブルの上に湯気が立つマグカップが置いてあった。
「とりあえず飲んで」
「ありがとう、ございます……」
「濡れた服、貸して。乾燥機かけるから」
「あ、すみません……」
シャツとスカートを渡した。
下着だけはバスローブのポケットにあらかじめ入れてある。
「これだけ?」
「……はい」
「下着は?」
首を振る。
何か言いかけた及川さんは、肩を竦めると出て行った。
乾燥機を操作する電子音が聴こえてきて、ゴウンと乾燥機が回る音が始まる。
マグカップをすすると、カフェオレだった。
甘い。
ホッとする。
と、同時に、甘さがまた切なさに変わった。
そうだった、私、たぶん及川さんにフラれたんだった……
「で、どうしたの急に」
戻ってきた及川さんは、立ったまま壁に寄りかかると、今日会ってから初めて私の目を見た。
「君が自分で俺に会いに来るなんて初めてだよね」
「……すいません」
「謝って欲しいわけじゃないよ。理由が知りたいだけ」
「あの……私たちって、まだ付き合ってますか?」
「は? なにそれ……」
「……及川さんが、私のこと、もう嫌になって……ほかの子が好きだっていうなら、私、大丈夫だから、ちゃんと言って欲しくて……」
「なに言ってんの……それはこっちのセリフなんだけど」
鼻で嗤われて、ちょっとムッとした。
「だって、及川さん私と別れたんですよね!? そう部活の人に言ったって……」
「言ったって……岩ちゃんに聞いた?」
「……そんなメッセージが来たって……」
なんで先輩、はじめちゃんから聞いたこと知ってるんだろう?
「じゃあ君はどうなの?」
「え……」
「今日岩ちゃんに会ったんだよね? で、何したの? それに今日昼間、誰と何してたの?」
「……なんのことですか?」
突き放したような言い方。
何かを責めるような声音。
「あの、すいません……なに言われてるのか……」
「ホント、君って鈍感だよね。そういう天然なところもいいけど、こういう時はイラっとする」
及川さんは自分のスマホをポケットから出すと、フリックして画面を私の目の前に出した。