第11章 及川さんに愛されて……
すぐに門扉の人が出入りする小さなドアがあく。
「ずぶ濡れじゃん!」
「あ、……はい」
「早く入って!」
私の手首を掴んだまま、ズンズンと家に向かう及川さんの背中に、ホッとする。
「あの、及川さん……わたし、」
「話はあと! 風邪ひくじゃん!!」
イラついたような声。
「……すいません」
「謝るぐらいなら、傘さしてきなよ」
突き放したような声。
前を歩く及川さんの背中が、私を拒んでるのがわかる。
やっぱり来ない方が良かった……?
「これで拭いて」
バスルームの脱衣所で大きなバスタオルと、バスローブを渡される。
「服も脱いで。そんなの着てたら本気で風邪ひくし」
「あ、あの、及川さん……」
「話はあと」
ぴしゃっとドアを閉められる。
洗面所の鏡に映った自分を見ると、本当にずぶ濡れでなさけない顔してる。
もしかして、及川さん私のこと、もうどうでもいいのかも。
ふと、あたりまえを思いついた。
そうだ、別になにかあったわけじゃない。
ただ、本気で及川さん、もう私のこと飽きただけなのかもしれない。
これまでの彼女みたいに楽しく明るいわけじゃない。
何かしてあげたわけじゃない。
きっと、一緒にいて楽しいわけじゃなかったはず。
なんだ、そういうことか………
「………っ」
私、フラれたんだ。
そう思い当ったら、涙が止まらなくなった。
久しぶりに泣いてる。
そんなどうでもいいこと思った。
でも、涙が止まらない。
着替えながら、泣いていた。
着替え終わる前に泣き止まなきゃいけない。
及川さんにこんな顔、見せられない。
絶対に眼の前では泣かない……