第10章 番外編 岩泉一side
あいつのことをちょっとだけ特別に想うようになったのは、いつの頃か。
いつの間にか、だ。
最初で最後の彼女と別れた頃には、もうなんとなく意識するようになっていた。
メガネの奥の大きな目が自分を見て笑むのが可愛いと思った。
つるっとした白い頬に触れてみたいと思った。
細い腰を抱き寄せたいと思った。
でも、そんなことはできない。
「はじめちゃん」
小さい頃と同じように自分を呼ぶあいつに、何かすることなんてできない。
そんな俺の密かな取り決めを、及川はあっさり飛び越えていった。
あいつに軽く告白した及川は、さらりとあいつとつき合い始めた。
どこまで本気なんだか。
どこまで遊びなんだか。
「どういうつもりだよ」
何度かそう問いただしそうになってやめた。
及川は、軽そうに見えて、実は割と真面目だ。
彼女には真面目に尽くす。
そう知っていたから、無理矢理自分を納得させた。
あいつが及川でいいなら、それでいい。
そう思った。
なのに……
花巻から送られてきたLINEメッセージに、怒りを抑えられなかった。
及川は何考えてやがる?
あいつはどうなる?
俺が我慢することなかったんじゃねぇか。
一体どうなってるんだ、あの2人は。
及川は、何がしたいんだ?
あいつは、どうしたいんだ?
いろいろな疑問が頭を駆け巡る。
これまで我慢してきた何かが一気に吹き出た。
だから……
火照った顔して出てきたあいつを、押し倒さずにはいられなかった。
体育館の倉庫での2人を偶然見てしまった時に感じた昂りが再燃した。
最初で最後に、触れたあいつの身体が熱くて、しっとりしていて、興奮した。
これで二度と前の幼かった関係に戻れなかったとしてもかまわないと思った。
好きだ。
好きすぎる。
なのに……
悔しいけど、俺はこいつを奪えない。
こいつが本気で及川を好きだから。
そして、俺も、どうしても及川のことを嫌いになれないから。
しょうもないヤツだと知っている。
なのに、心のどこかで及川のことを信用できるヤツだと信じてるから……