第8章 番外編 及川徹side
「え、でもあの子可愛かったじゃん」
「てめぇは誰でもいいんだろうが」
「ちょっと、俺の基準はかなり厳しいよ」
「どこがだ。誰彼かまわずいい顔しやがって」
「あれは芸能人のパフォーマンス、みたいな?」
「誰が芸能人だ、ボゲッ」
「ほら、あの子、あそこのマネに似てるし」
「あ? どこだよ」
「ほら……黒い……あ、烏野」
岩ちゃんはちょっと考えて、「ああ」と思い出したようにつぶやいた。
「落ちた強豪な。あそこと練習試合なんてしたことあったか?」
「去年のインターハイ予選で見たことあるんだよね~。メガネかけてて、ちょっとエロい感じで、口元にほくろがあってさ。たしか俺らと同じ学年だったはず」
「どんだけ細かいとこまで見てんだ、てめぇ」
「可愛い子は忘れないのが俺のモットーだから」
「そんなクソモットー、ドブに捨てちまえっ」
岩ちゃんは部室にドカドカ入ると、もうこの話は終わり!とばかりに着替え始める。
やっぱり、岩ちゃんあの子のこと気に入ってるようだ。
本人はまだ無自覚かもしれないけど……
メガネのあの子。
ぱっと見ただけだけど、色が白くてメガネの奥の目が大きい子だった。
でも……
及川徹の名前は知らない雰囲気だった。
青葉城西の去年の学園祭人気投票No.1だったのに。
そう思ったら、ちょっと悔しくなった。
そんなみっともない気持ちは、誰にも言えないけど。
なんか気になる。
そんなの、初めてだった。
……あれから
彼女を知って、1年以上……
ようやく、彼女がバレー部の試合を見にきた。
体育館の観客席で、分厚い、誰も借りたことのないような難しい本を読んでいた。
バレーの試合は興味なさそうに。
俺にも興味なさそうに。
だから、ちょっと意地悪したくなった。
どこまで彼女が、俺のわがままに付き合うのか。
俺のことを、視界に入れて欲しくて。
俺のことで、彼女をいっぱいにしたくて。
……あの桜吹雪の日。
初めて見た時から、俺は彼女に恋したらしい。
あの子を操りたい。
俺の思う通りに、泳がせて、喘がせて、俺でいっぱいにしたい。
岩ちゃんからも、だれからも、彼女を奪い取りたい……
生まれて初めて、誰かを「欲しい」と思った。