第5章 初めてのデート
理解に苦しむ名前の魚をさんざん見た後の食事はおいしかった。
昼もとっくに過ぎて座った館内カフェ。
斜め横に座った彼女がぺこぺこ頭を下げている。
「本当にごめんね、お腹すいてたよね」
「何度も言ったけど無視されたんで」
「聞こえてなかった」
魚を見ると人が変わったように真剣に、そして楽しそうに長い間じっと眺めていた。
月島が横にいるのを忘れたみたいに。
「魚好きって変わってるよね」
「あ、私海洋生物専攻だから」
「そうなの? なに、将来魚の研究とかしちゃうわけ?」
「水族館で働けたらなとは思ってるけど……」
「今度、ここにできるのあったよね」
たしか来年あたりに新しい水族館ができるとニュースで見たことがある。
「あ、そこは面接落ちちゃった」
「なんだ」
「蛍くんと初めて会ったあの日、実はあの新しい水族館の面接だったんだ」
「それって、本命就職先の面接に、捨てネコのせいで行けなかったってこと?」
「ん……まあ、そうだけど……」
「バカじゃないの」
「でもそれでホタルが蛍くんちの家族になれたから、これはこれで良かったかなと思って」
「お人よしだよね、ホント」
「そんなことないよ」
「そうデショ」
色々報われないのに頑張る人はニガテだ。
それを頑張れと無邪気に応援する人もニガテだ。
そういう姿を見てると、自分が冷めていくのがわかる。
子供の頃の自分と兄がダブるから。
でも……
「まぁ、お人よし過ぎるところがいいんじゃないの?」
「え……?」
「それがはなさんデショ」
「………かな」
照れくさそうに、うつむいてしまった頭をぐりぐりっと撫でる。
「ど、どうしたの、蛍くんらしくない……」
「さぁ……したくなったから」