第4章 どうしてか、愛しすぎて……
「今日母さんいないんだけど」
「あ、そうなんだ。じゃあこれ、ホタルの餌、置いてくね」
大きな紙袋を2つとおもたせだろうケーキの箱を玄関に置くと、彼女は帰ろうとする。
「寄ってけば?」
「い、いいよ……」
「ホタルに会いにきたんデショ」
自分の名前が呼ばれたのがわかったのか、ホタルが2階から駆け下りてきた。
「……じやあ、ちょっとだけ」
「どうぞ」
ホタルに餌をやる彼女にコーヒーとケーキを出す。
彼女が持ってきた箱の中には、ショートケーキが5つ入っていた。
さっそく自分にも1つ、用意する。
「ご飯の前にケーキ食べたらご飯入らなくなっちゃうよ」
「別腹なんで」
さんざん部活して帰ってきた男子高校生の食欲はハンパない。
「部活、毎日なんでしょ。大変だね」
「別に」
「私、運動できないから、インターハイとか出る人、すごいなって尊敬」
「見るからに運動、ヘタそうだよね」
「年上に向かっていつも失礼だよね、蛍くん」
「年上に見えないんで」
「蛍くんこそ、そんな背が高くて高校生に見えないけど……」
「背は関係ないデショ。背が146センチでも年相応に見える人は見えますよ」
以前、150センチすらないと知って、さすがにちょっとびっくりした。谷地さんより小さい。
「これからまだ伸びるからいいの!」
「もうその年じゃ伸びないデショ。僕はまだまだ伸びますけど」
「ホント、ああいえばこう言う、だよね、蛍くん」
「口の端にクリームつけてる人に言われたくないし」
「え、うそ……どこ……?」
指で口の周りをなぞっても、ちょうどの場所に触れない。
「ここ」
座ったまま、自分の指でついたクリームを拭ってやる。
「あ、ありがと……」
「はい」
そのまま指を口の前に指を差し出す。
「舐めて」
「………」
「もったいないデショ」
「………」
半分冗談、半分本気だったのに……
ちゅっ……んぅ……
指の先がじんわり暖かくなる。
彼女の口の中に含まれた人差し指が、柔らかい粘膜に触れる。
舌が指に絡みつく。
「美味しいの?」
訊くと、我に返ったように、彼女の顔が赤く染まった。