第2章 雨とネコとキミ
「あらあら、まあまあ」
月島家に着くと、母親がすでにいろいろ準備をして待ち構えていた。
わざわざ「田中つばな」という人を紹介しなくても、母親は勝手にあれこれ訊いて、子猫を世話しながら女2人で盛り上がっている。
なんだかな……と疲労感を覚えていると、
「よお、蛍」
「……なんで、いるの?」
兄さんがいきなり、いた。
「なんでって、今週末は同窓会があるから帰ってくるっていっただろ」
「知らないし」
「あら、蛍、母さん言ったわよ」
疲労感がよけい増す。
「あれ、やっぱりはなじゃん」
兄さんの声に、田中つばなが「あっ」と飛び上がった。
「月島先輩! え、ここ、月島先輩のお宅ですか!?」
「そうそう、なんだ、はなだったのか」
おおらかに笑う兄さんの声がいつもより優しくて、びっくりする。
「なんだ2人、知り合いナンダ……」
おせっかいなところがそっくりだ。
「こいつ、大学の時の後輩なんだよ」
「お久しぶりです、先輩」
なんだかんだと、母親を交えて近況報告とかを始めたのをよそに、2階の自室へ入る。
ジーンズとシャツに着替えて、買った本をバッグから出したついでにちらっと読んでいたら、コンコンとドアが叩かれた。
「おい蛍、母さんがお茶どうだって。ケーキもあるってよ」
ドアが開く。
「ちょっと勝手にあけないでよ」
「なに、ヤラシイことでもしてた?」
「バカじゃないの……」
兄さんがニヤニヤしてる。
気持ちワル……
「って、なに?」
「はなのこと助けるなんて、蛍も優しいと思ってさ」
「そんなんじゃないし。成り行きだから」
「なに照れてんだよ」
「照れてないし」
「はな、可愛いだろ」
「別にどうでもいいし……てか、はなってなに、その呼び方」
「ああ、ゼミの時、田中ってのが2人いてさ。つばなって言いにくいだろ。だから略称がはなになった」
たしかに「つばな」は言いにくい。
「田中」もヘンな坊主頭を思い出してしまう。
「まあ、なんかヘンな人だよね」
「基本、いろいろ不器用なヤツだからさ」
「そういう人、ほんとムリ」
不器用な人間を見てると、冷める。
あの彼女も、見てるとなんだか、イラッとする。
けど……
どっか、ほっとけなかった。