第3章 03
マルコはそんな彼女を不思議に思い手を伸ばすと、はすんなりとその手を取る。
「どうしたんだい?今日は様子が変だよい」
「……」
「大丈夫だよい。サッチはもういないから」
まだ警戒しているのか、と思い、の頭を撫でながらマルコは言うと、ピク。の耳が立った。
飛び込むようにマルコの膝に乗り、甘えるように頭を胸にすり寄せる。着物の襟をギュッと掴んで見上げれば、の目に少しだけ頬を赤くしたマルコの姿が、映った。
「死な、ないで……」
弱々しい声音で呟やけば、マルコの表情が曇る。その顔を見た途端、は疑惑を確信へと変えた。
急に悲しさが込み上げて、は涙を流した。驚いたマルコが慌てて涙を拭うが、後から後から溢れ出し、それに比例するかのようにの胸も、締め付けられる。
マルコは困ったように、でも少しだけ嬉しそうに笑んだ。自分の死を、こんなにも泣いてくれるのが嬉しい。
「マルコ。やだ。いなく、ならないで」
「俺もいなくなるのは嫌だよい。でも、もう、どうしようもないんだい」
だから泣くな。囁いて、ギュッと抱き締める。
は嫌々と首を振りながら、マルコの胸に頭を埋めた。
これでは単なる駄々っ子だ。自分でも分かっていたが、どうしてとは止められない。
「嬉しいよい、。こんなに俺を好いてくれてるんだねい」
「……好き?」
私はマルコが好きなの?こんなにも苦しくて辛いのが、好きという気持ちだと言うの?
マルコの言葉で自分の気持ちに気付いたは、更に胸が苦しくなった。
もう死にゆく人を好きになるなんて、あまりにも酷で、辛過ぎる。それでもは、この気持ちを止める術を知らない。
マルコの首に腕を絡めて、はふっくらと、でも少しだけかさついた唇に口付けた。
顔を上げると(驚きの余り)目を見開いたマルコと目が合い、は額にもう一度口付けた。そうしてから、再度口を開く。
「私、好き、だよ。マルコのこと、好き」
だからお願い。死なないで。
絞り出した切なる願いは、マルコの元へ届く前に、空気へと溶けた。