第2章 Act.2
「悠鬼ー……俺にはやってくんねぇのかよ?……敦にだけって酷くねぇ?」
『え?……何を?』
「俺の汗も拭けって言ってんだよ」
『灰くんも?……じゃあ……』
「ダメ!!」
抱き締め様とした手はどうする事も出来ず、だら~んと下したまま紫原は前屈みになって悠鬼に汗を拭かれて居る。
するとその様子を見ていた灰崎に、確かに不公平だと感じた悠鬼は紫原の顔から手を放し、まだ使っていないタオルを持って灰崎に近付こうとする。
その瞬間、今まで誰も聞いた事ない程の声が、体育館中に響く。
中二から常に行動を共にしている悠鬼も、中一の頃からずっとチームメイトの青峰達も驚いてしまう程、紫原の制止の声は大きかったのだ。
『むーちゃっ……!?』
その場に居た部員達全員が驚いた表情を向けているのにも関わらず、紫原は悠鬼の腕を掴んで引き寄せ、いつもより強く抱き締める。
大事な物を取られない様に、細くて小さな躰を自分の大きな躰で隠す様に……
「崎ちん、他の奴も……悠ちんに触ったら絶対許さないから……マジで捻り潰すよ?」
今にも人一人殺ってしまいそうな、重く鋭い目付きで灰崎を睨み付ける紫原。
彼の胸の中でもがき、そっと見上げた悠鬼の目に映る紫原は、恐怖を覚える程恐ろしく声も出せない。
流石の灰崎もそれ以上何も出来ず、「チッ」と舌打ちをして去って行ってしまった。
「紫原、下を見てみろ」
「下?……悠ちんっ……」
灰崎をずっと睨んでいた紫原は、緑間に言われて漸く腕の中に居る悠鬼に目を向ける。
相手は彼の服を掴んで、今にも泣きそうな顔をして居たのだ。
『ご、ごめんね?……大丈夫だから……もうしないから怒らないでっ……』
「……っ……俺、そんなに怖かった?」
「あぁ、マジで人殺せんじゃねぇか」
「全く、迷惑なのだよ」
青峰と緑間の言葉に、自分ではあまりそうは思っていない紫原なので、少し震えている悠鬼を黙って見ている事しか出来ないで居た。
それからまた練習を再開させたが、紫原は悠鬼に少し避けられる様になり、きちんとマネージャーの仕事を熟しているものの、悠鬼は朝練中ずっと暗い顔をしていた。