第3章 Act.3
今日はまた悠鬼の新たな一面を見た気がする。
負けると分かっていても、必死に自分からボールを奪おうと迫って来る相手。
可愛くてつい意地悪をしたくなる。
『あぁー!……高いよー!』
「ほらほら~……取らないと悠ちんが奢る事になるよ~?」
『やーだぁ!』
紫原はドリブルを止め、ボールを自分の頭の方まで持ち上げてしまう。
悠鬼にとっては、ジャンプしてもボールに掠りもしないくらい高い距離で、必死に何度もジャンプを繰り返す。
意地悪をする紫原に、口先を尖らせて拗ねた顔を見せる悠鬼は強行手段に出る。
「あぁー、悠ち~ん……それは卑怯なんだぁ~!」
『むーちゃんが意地悪するからでしょー!』
悠鬼は紫原に抱き付くと、彼を攀じ登って来たのだ。
一瞬驚く紫原だが、いつもの悠鬼に戻っているのが分かれば、ついその可愛さに見入ってしまう。
『ボール、ゲット~!……むーちゃん、私の事抱っこしてて?』
「あ~……まぁ良っか……悠ちんの勝ちで……」
いつの間にか悠鬼のペースになってしまえば、紫原はまた相手を抱っこしてゴールにショートさせてやる。
元から悠鬼相手に、本気出してやるつもりはなかった。
ただ彼女が辛い想いしてるなら、俺といる時ぐらいは笑っていて欲しい。
そう思ったら黙って見ているなんて出来なかった。
「悠ちん」
『ん?……もう下して良いよ?』
「やりたいなら……たまには相手してあげても良いよ~……毎日は疲れるからたまにね」
『……っ……ありがとう、むーちゃん……けど、もう大丈夫……私はマネージャーになったんだもん、これからはむーちゃん達の為に頑張るよ』
「達じゃなくて俺の為に頑張って?」
『も~……不公平な事は出来ないよ?』
「ね?」
『……っ……』
ボールを片付けて荷物を持つと、暗くなってしまった帰り道を二人で歩いて帰る。
彼なりに私を励まそうとしてくれたのかな?
彼が居なかったら、一人でどんどん悪い方向に考えてしまう。
もっともっと一緒に居たい。
この頃の私はただ純粋に、それだけを思って居た。