第2章 Act.2
「……っ……それは分からんが、紫原があんなに声を張り上げたのは初めて見たのだよ」
『え?』
「お前じゃなくてもあの場に居た全員が怯んだだろう、俺は違うが……紫原が菓子以外でこんなにも執着しているのも初めて見たのだよ」
『むーちゃんが執着してる?私に?』
「まるで菓子を取られまいとしている子供なのだよ……それだけお前が大事なのだろう」
授業開始のチャイムが学校中に響いても、緑間は悠鬼の隣から離れず言葉を紡ぎ続ける。
バスケの練習でも試合でも、いつも適当にしている紫原が彼女の事になると、人が変わった様に必死になっている。
悠鬼の存在は、あの大きな子供を変える程の影響力があるのではないか、緑間自身少し興味があるのだ。
緑間の話しを聞いた悠鬼は、自分の両膝に顔を埋めて小さくポツポツと話し始める。
『……っ……私、むーちゃんと出会うまで毎日去年の最後の試合を夢に見てたの……私が怪我して負けた時の試合を何回もッ……』
顔は見えないが悠鬼は、震えた声で話している。
泣いているのは分かるが、緑間は何もせずただ黙って聞いていた。
携帯を片手に……
『体育館に行くのも怖くて、他の人の試合を見るのも怖くてバスケを嫌いになってた……』
「……何で来たのだよ」
『むーちゃんといるの凄く楽しくって……どうしてもむーちゃんのバスケしてる姿を見たくっ……?』
確かに緑間の口調だった。
しかし声に違和感を覚えた悠鬼は、顔を上げて隣にいる筈の緑間へと視線を向ける。
だが隣にはいつの間にか紫原が立って居たのだ。
『む、むーちゃん!?……いつから居たの!』
「ん~、俺と出会うまで~の所から?……俺が泣かせてるんだよねぇ?」
『ち、違っ!』
全部聞かれていたとは気付かず、耳まで顔を真っ赤に染めて袖で涙を拭う悠鬼。
そんな相手を見た紫原は、地面に座って後ろから優しく悠鬼を抱き締める。
「俺が悠ちんの事心配してたからミドちん、俺に電話くれたー……意外だよねぇ?ミドちんがこんな事するの」
『……心配したの?私、むーちゃんの事怖いって思っちゃったのに……避けたのにっ……』
「……あの時、怖い思いしても俺を見に来てくれたんでしょ?……俺も悠ちんと居るの楽しいしー」