第5章 モデルさんと海常高校
数秒の沈黙のあと、リコ先輩の声がこだました。
「どーしてそういう大事なことを先に言わないのーっ!!」
「すっ……すいません……聞かれなかったので……」
「聞かれなかったらなんも喋らんのかおのれはーっ!」
「う”……ぐえっ……」
リコ先輩に首をしめられ苦しそうな黒子くんはさておき、ノートにメモをしながら考える。
黒子くんの魔法のパスは40分フルには使えない……。
そこで入部したての頃のミニゲームでのリコ先輩の言葉を思い出す。…視線誘導、だっけ……?何回もやっていれば相手の目が慣れてきちゃうってことかな?
それから涼太の弱点……。
これまでの試合を見てわかったのは、涼太は見たプレーをすぐに自分のモノにしちゃうってこと。火神が必死になるほど、それ以上に質の高いプレーで返された。
弱点なんてほんとにあるの……?
ふと、ノートから火神に視線を上げると、
何かを考えるように口元に手をあてていた。
ピーーッ
「タイムアウト 終了です」
「あぁーっ!!黒子くんしばいて終わっちゃったぁーっ!」
項垂れるリコ先輩を横目に見ながら、選手たちから飲み終わったボトルを受け取り端によける。
「このまま、俺にマーク続けさせてくれ……あ……ださい」
「だからなにそれ。敬語?」
呆れた表情のリコ先輩と火神のやりとりに
強ばっていた口元がわずかに緩んだ。
「もうちょいでなんかつかめそうなんす!」
「あっ……ちょ、待って!」
言い残してコートに入る火神をリコ先輩が慌てて呼び止める。
「とにかく!ディフェンス、マンツーマンからゾーンに変更。中かためて、黄瀬くんきたらヘルプ早めに。黄瀬阻止最優先!」
「「「おう!」」」
「が……頑張ってくださいっ!!」
コートに立つ後ろ姿に慌てて声をかけると、
任せろと言うように拳を突き出してくれた。
「あと……黒子くんはちょっとペースダウン。思いっきり点差引き離されない程度に。……できる?」
「やってみます」
心配そうに尋ねるリコ先輩の言葉に答えた黒子くん。
「頑張って!」
「はい」
そう答えた彼の背中はいつもより大きく見えた。