第5章 モデルさんと海常高校
「奏っち〜!」
振り返るとわんこのごとく駆けてきたモデルさん。
「笠松先輩は女の子が苦手なんスよ!」
私の隣に立った黄瀬くんに言われて海常の主将さん……笠松先輩の方を振り返ると、顔を真っ赤にしてわなわなと肩を震わせていた。
「ご、ごめんなさい!そんなこと知らなくて……」
「い、いいいや、き、気にするな……」
「ちょ、笠松先輩テンパりすぎっスよ!」
せっかく笠松先輩がなにか言ってくれたのに、
爆笑する黄瀬くんのせいでぜんぜん聞こえなかった。
文句をつけようと私が口を開くより先に笠松先輩が動く。
「うるせぇ黄瀬しばくぞ!」
そう言いながら蹴りをかます笠松先輩を見たら
なんだか可愛く見えて、笑いそうになった。
「あ!コートの準備なら大丈夫っスよ!
ウチの部員で足りてるっス!」
蹴られた腰をさする黄瀬くんに言われて、
笠松先輩にもう一度、すいません、と頭を下げる。
「それより奏っち!あれは確かにぎゃふんっスね!」
「あれは……ね」
笑いながら言う黄瀬くんに、
壊れたゴールを持つ火神を思い出して苦笑いを返す。
「それより……その、奏っち
って呼び方が気になるんだけど……」
笠松先輩が他の選手の元へ戻るのを見て、
朝から気になっていたことを尋ねる。
「これは俺のこだわりなんスよ〜!」
「なんかたま○っちみたいじゃん」
「それよりさ〜」
「話そらすなよ」
「俺のこと涼太って呼んでほしいっス!
黄瀬くんだとなんだかさみしいっスよ〜!」
「やだ」
即答するとぶーぶーと口を尖らすモデルさん。
だれかこの幼稚園児どうにかしてください。
「ねぇねぇ奏っちってば〜!」
「……あーもう分かった、分かったから
はやく先輩のところに戻りなさい」
ぐいぐいと腕を引いていた涼太の手をほどいて、
こちらを睨んでいる笠松先輩の方を指す。
「ほんと!?ほんとっスね!?」
「ほんとほんと。涼太、ハウス」
私が名前で呼ぶと、ぱぁっと笑顔になり走っていく涼太。
尻尾が見える……。
小さく笑いを漏らしつつ誠凛のベンチへ戻った。
背後から
「笠松先輩聞いてくださいっス〜!!」
「うるせぇだまれ!」
とかなんとか聞こえた気もするけれど、気にしないでおこう。