第5章 モデルさんと海常高校
名前を呼ばれて振り返ると、困ったように笑う涼太の姿。
「忘れ物っスか?」
うん、と頷いて持っていた紙袋を掲げて見せた。
なんとなく気まずい空気が流れる。
「カッコ悪いとこ……見せちゃったっスね」
苦しそうに笑う涼太に、こっちまで胸がぎゅっとする。
「かっこ悪くなんて、なかったよ……?」
「え……?」
「私は、涼太が帝光でどんなバスケをしていたのか知らないし、今までどんなことがあったのかなんて全然わからないけど……。でも、今日の涼太は、一生懸命ですごくかっこよかったよ」
目を見開いてこちらを見る涼太。
自分でもクサイことを言ってしまったと恥ずかしくなって視線を泳がせる。
どうしよう、なんか言ってくれないと恥ずかしいんだけど!!
「あ、そ、そうだ!」
ひとしきりわたわたしたあと、持っていた紙袋から小さくラッピングされたクッキーを取り出す。
「ちょっとしかないんだけど、これあげる」
「クッキー……?もしかして手作りっスか!?」
「もしかしなくても手作りです」
目をキラキラさせて尋ねてくる涼太に答える。
「すごい!!めっちゃ美味しそう!」
「甘いもの食べると元気になるからさ!」
涼太にクッキーを手渡し、彼が何か言いかけたときだった。
ピロリン♪
可愛らしい電子音が携帯に入ったメールを知らせる。
あ、そうだ。私忘れ物取りに来てたんだった。
「ごめん涼太!私、先輩方待たせてるから行かなきゃ!なにかあったらメールとかで!ばいばい!」
「ちょ、奏っち!?」
涼太がなにか言っている気がしたけれど、
今は気にしている余裕がない。
メールを確認しながら校門をかけぬける。
差出人は黒子くん。
頭の怪我は特に異常がなかったということと、
みんなでご飯を食べて帰ることになったから
お店に来て欲しいとのことだった。
どこから得た情報かは謎……というか考えたくないけれど、私が地図を読めないことを考えてか、“3つ目の信号で左折”、といったように、ご丁寧に文章で記されており、迷わずにたどり着けそうだ。